□□□ プロローグ □□□(承前) それに、話だけじゃないしね−−−自然とほころぶ口元を隠すように台本をか ざしながら……。 * * * * * 「さすがに疲れちゃいましたか?」 純子がこう訊くと、松平は煙草をくゆらせながら 「疲れるもなにも、少しは歳ってもんを考えてくれよ。久保君と違って、こっち はもう老化が始まってるんだから」 と答えた。しかし、台詞とは裏腹に、顔は笑っている。 「何が歳ですかぁ。今どんなだったと思います?もぅ、訊いた私が莫迦みたい!」 ぷぅ、と小さく頬を膨らませて、純子は松平の肩に身体を預けた。 渋谷にあるラブホテルの一室。「事」を済ませた純子と松平は、ベッドの上で 寄り添うように寝ていた。 「それにしても、今日はどうしたんですか、定知さん。いつもよりずっとすごか ったんだからぁ」 「そうかい?どうしたんだろうなぁ。俺はそんなに違うようには思わなかったけ ど…」 そう言いつつも、やはり顔は笑っている。「誉められ」て、機嫌を損ねる男な どいるはずもない。 「嘘ばっかり。何かいいことでもあったんですか?」 松平の口元から横取りした煙草の煙を静かに吐き出しながら、純子は 「まさか、何かクスリでも使ったんじゃ!?」 とクリッとした目を大きく見開きながら、松平の目を見た。 「おいおい、俺がそんなことするタイプに見えるかい?」 「そうは思いませんけど…。でも、ホントにすごかったんですもの。私、どうに かなっちゃうんじゃないかって、コワイくらいだったんですから」 何も使ってなかったとしたらどういうことなのかしら…、純子にはその理由が 分からない。 納得いかない、といった表情で考え込んでいる純子に、松平は 「そんなことどうだっていいんじゃない? 第一、気持ち悪いとかそういうこと じゃないんだから。気持ちよ過ぎて考え込むなんて、久保君も珍しいね」 と、笑って言った。 「まぁ、もし理由があるとすれば…」 「えっ?」 「それは、久保君が成長しているってことじゃないのかな?」 そういう松平の台詞に、純子はいぶかしげに 「どういうことですか?」 と尋ねた。 「どういうも何も、久保君が『女』として成熟してきたってことだよ」 松平は、妙に真面目な顔で言った。 「成熟…」 「まぁ、下世話な言い方をすれば、『感度がよくなった』ってことかな」 そう言ってニヤッと笑った松平の顔を見て、 「あっ…。・・・もう、定知さんったら、いやらしい言い方しないで下さい!」 純子はさっきよりも大きく頬を膨らませて、松平を睨んだ。しかしその目は笑っ ている。 「今更いやらしいもないだろう。久保君もまだまだコドモだなぁ」 そう言いつつ、松平は純子の胸に手を伸ばし、その先端に指先で触れた。 「あんっ…!」 思いがけない『奇襲』を受け、純子は細く喘いだ。 「ね。こういうことだよ。分かるだろ、久保君も」 松平は、更に全体を包み込むようにしながら、大きな手で純子の乳房を揉みし だいた。そのタッチは、語り口と同様あくまでソフトに…。 |