PC-9801シリーズのうち、3.5インチFDD搭載モデルはパーソナル用という位置付けがされていた。後には3.5インチFDDが主流になってしまうためにそのような区別もなくなったのだが、PC-9801VX/UX,RX/EX,RS/ESといったあたりのモデルは、3.5インチモデルにのみFM音源を標準で搭載するなど、パーソナルユースでの使用を意識していた。 そして、パーソナルユースをよりメインターゲットとした製品ラインが、PC-9801UV11に始まるコンパクトデスクトップのシリーズである。特にUV21においては、VM相当の機能+FM音源を搭載しながらも、かなりコンパクトな筐体だったため、ビジネスユースでも多用されたほどである(価格が安かったという面も大きいのだが…)。っていうか、いまだに現役のラインで動いていたりするのだけど。 そのUV系列の完成型とも言えるのが、ここで取り扱うPC-9801USである。CPUはintelのi386SX/16MHz、メモリは1.6MB(AT風に言えば2MB)を内蔵し増設SIMMソケット×1(61SIMM)を装備。HDDは2.5インチIDE仕様のものを内蔵可能となっている。筐体が小さいので拡張スロットは2つしかないが、ゲームをするのに必要最低限のFM音源(26音源)は内蔵している。 これだけの機能を搭載できているのも、98NOTEの技術を流用しているからであり、FDDもFD1139を使用したりHDDパックを採用するなどの工夫をしている。さらには、PCカードスロットまでも搭載しているため、メモリ増設などに利用可能である。なお、このスロットはPCMCIA2.0以降のいわゆる現在のPCカードとは異なるので注意。 と、様々な特色を持つPC-9801USなのだが、Windows3.0A/3.1を動かすには能力が不足しており、結局はDOSゲー機としての性格しか示せないところが中途半端な存在である。しかし、技術的には面白いマシンであり、それ故に興味を惹かれるのかもしれない。 そして、改造の対象機としても面白く、簡単な作業でクロックアップできてしまうなどいくつかの特徴がある。ということで、基本的な改造をしてみたので以下に示していく。 |
まずは、改造の定番クロックアップからである。 USのマザーボードは別にNOTEと共用するなどといったことは考慮されていないのだが、設計は他のマシンとの共用をかなり考えて作っているようである。というのも、先人の解析により、USはシステムクロックが16MHzでも20MHzでもどちらでも動くように設計されており、チップ抵抗の実装の仕方を変えるだけで切り替えられるということがわかっているからである。 よって、ここに書いてあるクロックアップを行っても、シリアルやBEEP音のズレといったものは一切考慮しなくても良い。 上の写真はCPU周辺の様子だが、黒いソケットが387SX用でその右側にi386SX、左側にクロックジェネレータが位置している。このうち改造箇所は、クロックアップジェネレータ部分になる。クロックジェネレータ周辺を拡大したのが次の写真。 31.94MHzの3pinオシレータが実装されているので、システムクロックはこれを2分周して作っていることになる。よって、クロックアップするにはこれを40MHzのものに交換してやればいいのである。 スルーホールになっているので、無理に抜かないように丁寧に取り外し、その後にソケットを取り付けておく。今回は手持ちのDIP8pin型を使用したため、それに合わせて丸pinソケットを取り付けている。一応、元の3pinタイプも使えるように、ソケットには細工をしてあるが。 作業後の様子が次の写真。 左側がソケットを取り付けた様子で、右側がそこにオシレータをさしたところである。オシレータは39.3216MHzを使っているが、40MHzでも問題なく動くはずである。ただ、誤差がないのは39.3216MHzの方なので、できればこちらを使いたいところである。 さて、続いてシステム側が20MHzで動作するよう設定してやらなければならない。これは、このクロックジェネレータ部分の裏側の抵抗を移動することになる。 こうやって見てしまうとどこの部分なのかよくわからないかもしれないが、7C1〜7C3とシルク印刷があるのが387SX用ソケットの裏側で、7A6のコンデンサの右側に3つランドが並んでいるのが、クロックオシレータである。 ここで作業が必要なのは7A4と7A7のランドである。7A4についているチップ抵抗を、7A7に移し替えればいいのである。 これで、クロックアップに関する作業は終了である。組み直して正常に動作すれば問題ないであろう。 当然のことながら、これ以上のクロックアップをする場合には、シリアルの同期がずれたりBEEP音の音程がずれたりという症状が発生するとか、最悪の場合起動しないといったことになるので、何らかの対応が必要になる。 |
さて、続いてはCPUの換装である。 クロックアップをするのはいいのだが、CPUの動作定格は16MHzであり、20MHzでは1.25倍の動作速度となってしまうので、熱暴走のおそれがでてくる。それでも、PentiumIIIとかとくらべるとはるかにマージンがあるので、放熱さえしっかりしてやれば問題はないと思われるのだが、せっかくなのでCPUも交換してより高速に動作させてみたいところである。 交換するのは、PC-98に一大改造ブームを巻き起こしたCyrixのCx486SLCである。i386SXとピン・信号レベルで互換ながら、内部コードにはi486相当のものを実装し、さらに内蔵キャッシュを動作させることによって、i386SXにくらべてはるかに高速な動作を可能としたCPUである。また、もともと数値演算コプロセッサの開発をしていたこともあり、乗算回路をハードウェアで実装したために本家i486よりも乗算が速いという特徴があった。 換装自体は、もともとのi386SXを取り外し、Cx486SLCを取り付けるだけである。ただ、これがはんだづけされているために、細かい作業が必要となるのが最大の難点である。熱風こてや専用こて先などを利用すればかなり楽になるのだが、そんな装備のない場合には、とにかく時間をかけて手作業でやるしかない。 ほとんどのピンが、周囲にランドとして引き出されているため、隣接したピン同士の不要な接触がないかとか、はんだづけの状況を確認するのが楽なのはうれしいところである。また、万が一にも基板のパターンが剥がれても、ランドからジャンパをとばすことによって復旧が図れるのは、心強いものである。 もし可能であれば、ここにCx486SLC2などの2倍速動作するCPUを取り付けてやれば、クロックアップと併せて40MHz動作をさせることが可能になるのだが、今回はそのようなCPUが入手できなかった。 なお、CPUの上部にはサブボードがかぶさってくるためにスペースとしてはあまり空いていない。よって、放熱器を取り付ける場合などは要注意である。特に、i386SX/16MHzを20MHz駆動させる場合などは、空気の流れや熱の逃げ道に多少の配慮が必要だろう。 |