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ThinkPad535用バッテリパックの製作

 ThiinkPad535一時代を築いた名機であることは疑いのないところだ。が、しかし、もちろん弱点も存在する。その一つがバッテリパックの弱さである。

 ThinkPad535シリーズは、初期にはニッケル水素(NiMH)、途中からはリチウムイオン(Li-Ion)2次電池を使用しているのだが、はっきり言って寿命が短い!しかも値段が高い!!ときたもんだ。

 特にニッケル水素を使用している場合には、バッテリがへたってきて放電電圧が下がると液晶表示が短い周期で明暗を繰り返すという、恐ろしく使いにくい症状を示すことがある。これが、ACアダプタを使っていても起こるんだからたまったもんじゃない!のだ。

 で、新しいバッテリパックを購入しようにも、入手性は最悪。たぶん在庫を持っている販売店なんて全国を探してもそうはないだろう。

 ということで、このバッテリパックを補完する意味で、入手性の良い2次電池を使ってパックを作っておけば、多少は問題点の解決になるんじゃなかろうか?というのが、この企画の趣旨である。

1 目標

 この企画における最終目標は、通常入手可能な2次電池を使ってThinkPad535用のバッテリパックを作ることである。
 このバッテリパックは、本体側から見たときに正規のバッテリパックと「見かけ上」同じ動作を示すものとする。また、充電はACアダプタを使用して行い、動作中の充電も可能なものとする。その他、詳細な仕様は現物合わせってことで…(^^;)

2 解析

 さて、バッテリパックを作るためには、標準のバッテリパックがどのような回路で動作しているのか調べなければならない。
 とりあえず、お亡くなりになったLi-Ionバッテリパックを解体して中味を調べてみた。
バッテリ周辺回路
 これは、バッテリと本体とを結合するコネクタ周辺の回路図だが、推定の部分があるので正確かどうかの保証はできない。
コネクタは5ピンのもので、保守マニュアルを参考に番号と名前をつけてある。

 1番ピンがバッテリの+端子、4番ピンが−端子。

 2番ピンは信号線となっているが、詳細は不明である。アダプタとバッテリパックを外した状態(内部バックアップ電池のみ)でも+5Vが検出できるので、バックアップ回路と関係する端子だと推測した。内部でプルアップされているのだろう。

 3番ピンにはサーミスタが直結され、本体側でプルアップされている。なお、3・4番ピンにサーミスタをつなぐと、本体はバッテリが装着されたと認識する。ここの抵抗値を小さく変更しても充電終了状態には移行しないので、他の監視データと併せて保護をかけるものと思われる。
 このサーミスタの温度係数はマイナスで、室温で約9kΩ程度の値を示している。ちなみに、抵抗値を大きくしていくとおよそ40kΩより大きくなったところで、バッテリを接続していない状態に移行する。

 5番ピンはバッテリのセル数を規定するもので、このピンを開放にすると8セルでの制御、GNDに接続すると9セルでの制御を行うようになる。これによって、バッテリ放電電圧のしきい値が変わってくる。

 下の写真は、バッテリに内蔵されている制御回路の様子である。
バッテリ制御部

 右下の白い部分のそばにあるのが電流センサ部分(たぶんFET)で、温度ヒューズと熱結合されている。その他、ロジックICの4001(Quad NOR)なども載っている。
 表面実装部品ばかりで型番もよくわからないので、制御システムがどうなっているのかは不明である。
3 仕様

 手持ちの部品と安価に入手できる部品を考慮して、以下のとおりとした。


・NiMH2次電池使用
・電圧 9.6V(8セル)
・容量 1.5Ah
・充電時間 3時間強(0.3C=0.5A/h充電)
・−ΔV+タイマー制御式
・常時補充電を実施
 参考までに、純正オプションのバッテリパックの仕様を記載しておく。
ThinkPad535純正バッテリパック仕様
種別 電圧 容量
NiMH 9.6V 2.1AH
Li-Ion 10.8V 2.2AH


4 回路詳細

(1)充電部

 充電制御はMAXIMのMAX713(U1)を使用した。これは、秋月電子通商の−ΔV制御NiCd/NiMH超急速充電器キットから部品を流用したためで、Q1も同じくそのキットに含まれていたものである。

 資料によれば、MAX713と同じ充電制御用ICとしてMAX712があり、MAX713は電圧降下(負の電圧勾配)を検出して急速充電を停止するのに対し、MAX712は電圧がピークになったところで急速充電を終了するということである。
 したがって、充電電流が少ない(C/2以下)今回のような場合には、MAX712の方が過充電することなく充電終了を検出できると思われる。

 しかし、今回の回路では8セル結合で充電するため、電圧勾配の検出はかなり正確に行われるため問題無しとした。本来であれば、MAX712の方がいいとは思うのだが、新たに買うと\800ぐらいしてしまうのであきらめた(笑)。
充電部回路図
 その他の部品定数はデータシートの数値と手持ちの部品を照らし合わせて決定した。特に、今回の場合は小型化する必要があるため、チップ部品や表面実装部品をなるべく利用することとしたため、変な値の部品を使っていたりする。

 R1は最初1.5kΩで予定したのだが、MAX713が結構熱くなったので、計算上の値に近い2kΩとした。実際には、1kΩの1/16W小型カーボン抵抗を2本直列にして実装している。
 R3は充電電流を決定する電流制限抵抗だが、急速充電時にはMAX713の12番ピンが0.25Vで一定になるので、R=0.25V/I(fast)[I(fast)は急速充電電流]により決定する。今回は0.5Aを目標としているので、およそ0.5Ωとした。
 なお、この抵抗には大電流が流れるためできるだけ耐電力の大きな抵抗を使う必要がある。計算上0.25V×0.5A=1.25Wの耐電力が必要(*1)となり、安全性を見込むと3W以上の抵抗を使いたいところだが、今回はスペースの都合で2Wの精密金属皮膜抵抗とした。

 充電電流を0.5Aとした根拠は以下のとおり。
・ACアダプタの定格出力が2.2Aであるのに対し、本体の通常消費電流がおよそ1.5Aであるため多少の余裕を見込むとこれ以上の負荷はかけられない。
・充電電流を増やすとパワートランジスタの発熱が増え、Trが熱暴走する可能性が増える。とてもそんなに放熱できるような放熱板をつけることはできない。
・MAX713のタイマ設定が264分の前が180分であり、タイマ設定を180分とした場合で効率を75%とすると、所要充電電流は0.7AとなりACアダプタの定格ギリギリとなってしまう。
 ということで、0.3C充電によりおおむね3時間強の充電所要時間とし、保護回路として284分のタイマにより時間経過による急速充電終了を設定した。

 実際に回路を組んで充電電圧を計測してみると、ピーク時でおよそ12.5Vまで上がり、その後急激に10V附近まできれいに降下するため、ちゃんと制御できている。
*1 ここを御覧になった方から計算を間違えているんじゃないかと指摘がありました。そのとおり、見事に1桁間違えております。正しくは、0.25V×0.5A=0.125Wです。計算上では余裕を見ても0.5〜1Wクラスの抵抗で充分です。

(2) 制御部

 つづいて、今回の製作においてもっともやっかいな制御部である。

 当初は、もっとシンプルな回路で済むはずと考えていたのだが、動作試験をしてみるとバッテリのふりをさせるのに面倒な制御を必要とすることがわかってきたのでここまで膨れあがってしまった。

 では、とりあえず、回路図を見てみよう。
制御部回路図
 この回路は、バッテリ切替・本体制御・電圧検出の3つの部分に分けられる。

 バッテリ切替は、リレー(RL1)とショットキーバリアダイオード(D2)により行われる。
 ACアダプタをつないだ場合、BAT(NiMH)はリレー(RL1)により充電回路に接続される。DC入力がない場合には、本体側に直結され電圧を供給するようになる。D2はACアダプタ保護用の逆流防止ダイオードである。当初は、バッテリ側にも保護用ダイオードを付けようと思ったが、電圧降下がもったいないので外している。

 次に本体制御部だが、これはQ2により行っている。
 Q2(RN1401)は、バッテリもしくはアダプタにより電圧が供給されている場合、サーミスタと同等の抵抗(R5)をバッテリコネクタの3番とGND間につないで、本体側にバッテリ動作であることを認識させている。
 Q3は、アダプタ動作時にQ2をOFFにして、本体側にアダプタ動作であることを認識させるためのものである。

 最後に電圧検出部だが、これはD2の順方向電圧(およそ0.4V)を検出する回路である。
 ダイオードの両端の電圧を取り出して1%金属被膜抵抗で受けた後LM358(U2)に入力しコンパレータ動作させる。順方向電圧が検出された場合は出力がHighになり、Q3がONになる。その結果、Q2がOFFとなって本体から見てバッテリが無い状態になる。

 なお、ここではコンパレータをオペアンプで代用しているが、必ず片電源対応ものを使う必要がある。そうしないと、出力がLowの時に0V附近まで振ってくれないので、Q3がOFFにならないのだ。

 実は、単にアダプタ動作時にQ3を制御するだけなら、コンパレータなんか使わなくても抵抗1本で済む話なのである。それなのに、なぜこんな回路を構成しているかというと、以下のような理由による。

 ACアダプタをつないで動作させている場合、Q3を動作させることによりQ2がOFFとなることは先に書いたが、ThinkPad535は、本体にACアダプタがつながっていない状態でバッテリからサスペンドから復帰しようとすると、電圧があるかどうかだけではなくバッテリがあるかないかを判別しているのだ。
 したがって、サスペンドから復帰するときにはバッテリが装着されているように振る舞い、復帰後はアダプタ動作であるように見せかけなければならない。

 で、アダプタがつながっていることは簡単に検出できるが、その時本体がサスペンド状態なのか動作中なのか知る手段がないのである。
 そこで、D2の順方向電圧がある場合は動作中、ない場合はサスペンド中とし、動作中と判断できる場合にだけQ3をONにするようにしたのである。
5 部品配置

 部品はなるべく安いものを調達し、現品合わせで組み込み位置を決定していった。ただし、途中でどんどん回路が変わってしまったため、妙なスペースの偏りができてしまった。

バッテリ組み込みの様子

 バッテリユニットは、秋月電子通商で入手した最小容量1500mAのNiMH充電池である。単3型であれば1600mAのものも市販されているのだが、価格面からこれを選択した。
 本来であれば、タブ付き電池を使い確実にはんだ付けして内蔵したいところだが、タブ付きは入手性が悪い割に価格が高く、コストパフォーマンスが悪いので今回は不採用とした。今回の製作においては、将来においても中味を交換することを想定しているので、汎用性のある部品でないと困るのだ。

 充電部はもともと制御基板が入っていた狭いスペースに入れている。

充電ユニット平面図

充電ユニット断面図

 上の2枚の写真は充電部とコネクタ部分(CN1)である。これだけの部品点数だが、充電制御はすべてこのユニットで可能である。もちろん、裏側にもチップ部品がついているんだけど。
 放熱用にアルミ板をつけているのだが、いかんせんスペースが少ないため満足できる面積を確保できているとは言い難い。

 制御部はスペースがなかったので、バッテリユニットの横に入れている。DCコネクタの周りにはバッテリ切替部を配置。リレーやショットキバリアダイオードなどがあるのが下の写真でわかるかと思う。

制御部1

 アダプタをつなぐためのコネクタがなければ、内蔵できるセル数が9セルとできるはずなのだが、さすがにそこまでのスペースは確保できなかった。まぁしょうがないね。

制御部1

 上の写真が電圧検出部である。実にコンパクトにまとまっているが、ここに至るまでには幾多の苦労が…。

 なお全体の配線は、1A以上流れる部分は1.2〜2.0mmのホルマル線を、それ以外は細い被覆線を使用している。なるべく太いケーブルを使った方が電圧降下が少なくなるのはわかっているのだが、いかんせんスペースの都合で妥協しているところも非常に多い。
6 反省点

 とりあえず組み上げて実用試験に投入しているが、欠点が見えてきた。最大の欠点は、接触抵抗により過大な電圧変動が起きてしまうということ。おかげでLCDのバックライトの明度がふらついて画面がとても見にくい。これは、単3型バッテリを使う限り解消できないかもしれない問題なので、どうしようもないかもしれない。
 もし、もしも自分で作ってみようなんていう場合は、やっぱりはんだ付け用タブ付き電池を使った方がいいでしょう。でも、容量はなるべく多いものにしないと、すぐに電圧低下が顕著になってしまうから妥協は程々にってことで…

 あと、急速充電中はかなり熱を出すので、膝の上ではつかえないのだ。肌に触れさせたらやけどしちゃうから(笑)
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